大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(行ウ)285号 判決

原告 立飛企業株式会社 ほか一名

被告 住宅・都市整備公団

代理人 中垣内健冶 廣戸芳彦 ほか四名

主文

一  本件各訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告立飛企業株式会社に対して、別紙物件目録中第一記載の土地部分に立ち入り、又は同土地部分内に立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業の名称及び施行者としての被告の名称を表示した標示杭を設けてはならない。

二  被告は、原告新立川航空機株式会社に対して、別紙物件目録中第二記載の土地部分に立ち入り、若しくは同土地部分内に立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業の名称及び施行者としての被告の名称を表示した標示杭を設け、又は同目録中第三記載の建物部分を除去してはならない。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行区域(土地区画整理法(以下「法」という。)二条八項)内に土地を有する原告らが、当該施行区域は法三条の二第二項一号に規定する区域に該当しないから、被告は土地区画整理事業の施行者になり得ないとして、所有権に基づき、被告が土地区画整理事業のために行うであろう「第一請求」に記載した各行為(以下「本件行為」という。)の予防を求めるものである。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一) 原告立飛企業株式会社は別紙物件目録中第一記載の土地部分を、原告新立川航空機株式会社は同目録中第二記載の土地部分(以下右両土地を合わせて「本件土地」という。)及び同目録中第三記載の建物部分(以下「本件建物」という。)を所有している。

(二) 東京都は、平成七年五月一五日、東京都告示第六二三号をもって、本件事業を決定したが、本件土地及び本件建物は、その施行区域内に存在する。

(三) 被告は、本件事業を施行し、いずれは本件行為をしようとしている。

2  本案前の抗弁

(一) 建設大臣は、平成九年三月三一日、住宅・都市整備公団法(以下「公団法」という。)四一条により、被告を施行者とする本件事業に係る施行規程及び事業計画についての認可(以下「本件認可」という。)をした。

(二) 被告は、形式的には独立の法人とされているが、国及び地方公共団体からの出資により設立された国の特殊法人であり、その目的を達成するために公団法二九条一項六号により土地区画整理事業を施行する抽象的権限を与えられており、土地区画整理事業の施行に関する限り、主務大臣である建設大臣の下級行政機関として位置付けられている。この点からすると、公団法四一条による認可は、被告に対して土地区画整理事業の施行権を付与するものではなく、法三条の二の規定への適合性等を審査してする監督手段としての承認の性質を有するものである。

(三) したがって、被告が行おうとしている本件行為は、土地区画整理事業の施行者たる被告が行う行政処分であるから(公団法四七条一項、法七二条一項、七七条一項、八一条一項)、これに対する不服の訴訟は各個別的な行政処分に対して行うべきところ、本件各訴えは、民事上の請求として、被告に与えられた公権力の行使の取消しを求めるものであって、不適法である。

3  本案前の抗弁に対する原告らの主張

(一) 本案前の抗弁(一)のうち本件認可がされたことは認めるが、その余の主張は争う。

(二) 法によっても、建設大臣は、すべての土地区画整理事業について施行権を有するものではなく、法三条の二に規定する被告の土地区画整理事業の施行についても、同条各項所定の要件を充足する事業について、建設大臣の施行権及びその被告への委任が観念し得るにすぎない。

(三) 被告が主張するように、本件認可が処分でないとすれば、本件認可は公定力を有しないから、違法である限り当然に無効である。

そして、本件事業の施行区域は、法三条の二第二項一号に規定する「既に市街地を形成している区域」には該当しないから、同号の要件を充足しない本件認可により被告が施行者(行政庁)となる余地はなく、建設大臣に要件判断の裁量があるとしても、本件事業の施行区域を「既に市街地を形成している区域」に該当するとした判断には裁量権の逸脱、濫用があり、違法である。したがって、本件認可は無効であり、これに基づき土地区画整理事業の施行者として被告が行う本件行為は公権力の行使ではない。

(四) 仮に建設大臣がすべての土地区画整理事業につき施行権を有するとしても、本件事業の施行区域が法三条の二第二項一号に規定する区域に該当しないことは法文と本件認可に係る事業計画を対比するだけで明白であり、被告を本件事業の適法な施行者ということはできないから、本件行為が土地区画整理事業の施行行為として表見的に存在し得るとしても、施行者要件に関する重大、明白な瑕疵がある以上、本件行為は無効である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  法及び公団法の規定について

1  法は、三条から三条の四までの規定において、土地区画整理事業につき施行者の種別と施行の基礎的要件を定めるが、法三条一項は宅地につき所有権若しくは借地権を有する私人又はこれらの者の同意を得た者について、同条二項は宅地につき所有権若しくは借地権を有する私人が設立する土地区画整理組合について規定し、同条三、四項、三条の二ないし三条の四は、都市計画で定められた土地区画整理事業の施行区域について施行者と施行の基礎的要件を規定する。

そして、施行区域の土地についての土地区画整理事業は都市計画事業として施行するものである(法三条の五第一項)ところ、市町村及び都道府県は土地区画整理事業の施行をその事務とする(地方自治法二条三項一二号)、都市計画事業の本来的な施行者である(都市計画法五九条)から、施行区域における土地区画整理事業については、都道府県及び市町村を施行区域の事業施行者とする法三条三項は原則的規定ということができる。そして、都道府県及び市町村の施行者としての法的性格は、地方自治法及び都市計画法の関係各規定を前提に法三条三項によって付与されたものということができる。

ところで、法三条の二第一、二項は、被告が施行区域について土地区画整理事業を施行することができる場合に関して、施行区域の土地について、被告の行う住宅建設又は宅地造成等と併せてこれと関連する健全な市街地に造成するための土地区画整理事業を施行する必要(法三条の二第一項)又は法三条の二第二項各号に定める区域のうち特に一体的かつ総合的な市街地の再開発を促進すべき相当規模の地区の計画的な整備改善を図るため必要な土地区画整理事業を施行する必要(法三条の二第二項)があると建設大臣が認める場合であると規定するが、右各項に規定する土地区画整理事業を施行する必要が客観的に存在する場合であると規定するものではない。

なお、被告が施行する右の土地区画整理事業については、法のみならず公団法の定めるところによるものとされている(法三条の二第三項)。

2  公団法によれば、被告は、大都市地域等で良好な居住性能、居住環境を有する集団住宅及び宅地の大規模な供給を行うとともに、その地域で健全な市街地に造成し、又は再開発するために市街地開発事業等を行い、都市公園の整備を行うこと等により、国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的として(公団法一条)、政府及び地方公共団体からの出資により設立された法人であり(公団法二条、四条)、被告の管理委員会の委員、総裁、監事の任命権は建設大臣に属し(公団法一一条一項、二〇条一項)、主務大臣の監督に服する(公団法六二条)。

公団法一条に規定する目的を達成するために、被告は法による土地区画整理事業を行うものとされており(公団法二九条一項六号)、法によれば、被告は、宅地につき所有権若しくは借地権を有する私人又はこれらの者の同意を得た者として(法三条一項)、又は法三条の二第一項又は二項の規定により施行区域について、土地区画整理事業を施行することができるが、法三条の二第二項の規定による土地区画整理事業については地方公共団体の要請をまって行うものとされている(公団法二九条四項)。そして、法三条の二第一項又は二項の規定により被告が施行区域について施行する土地区画整理事業については、法のほか、公団法に定めるところによるものとされているが(公団法四〇条)、被告は右土地区画整理事業を施行しようとするときは、施行規程及び事業計画を定め、建設大臣の認可を受けなければならないものとされ(公団法四一条一項)、この土地区画整理事業については、被告を市町村長とみなして市町村長を施行者とする土地区画整理事業(法三条四項)に関する法の規定を適用することとされている(公団法四〇条、四七条)。なお、前記のとおり、法三条の二第一、二項による被告の土地区画整理事業は建設大臣が右各項所定の必要を認めた場合に行われるものであるところ、被告の事業施行に際して行われる建設大臣の行為は、右に記載した認可であるから、建設大臣は右認可に際して、法三条の二第一、二項に規定する土地区画整理事業を施行する必要をも判断するものと解される。

3  右によれば、施行区域における土地区画整理事業については、市町村及び都道府県が本来的な施行者ということができ、法三条の二第一、二項において所定の必要性を建設大臣の判断に委ねることとした趣旨は、かかる土地区域整理事業によって施行区域周辺の土地、住宅の供給状態、地域の性格ひいては都市政策、住宅政策にも少なからぬ影響を与えることになることから、市町村及び都道府県に属する右事業に関する事務を被告に担当させるに当たり、その基準を法定するとともに当該判断を介して被告を建設大臣の監督に服させることにあるということができる。

すなわち、被告は国又は地方公共団体から独立した法人であるが、その目的、設立等の公共性にかんがみ、法三条の二第一、二項は、公団法二九条一項六号を前提として、法所定の建設大臣の監督に服すること(公団法四一条による認可を得ること)を要件として、被告に施行者たる法的性質を付与したものというべきであるから、公団法四一条の認可を得た被告は、施行者として施行区域における土地区画整理事業を施行することができ、仮に被告の施行規程等に対する認可に際して、建設大臣が監督権の行使として行う法三条の二第一、二項に規定する必要性の判断に誤りがあったとしても、そのことによって被告の施行者たる地位ひいては行政庁性が否定されるものではないというべきである。

二  本件訴えの適否

1  弁論の全趣旨によれば、請求原因(一)、(二)記載の事実が認められ、本件認可がされたことは当事者間に争いがない。

2  右によれば、本件訴えは、民事訴訟によって、土地区画整理事業の行政主体たる被告が行う可能性がある処分をあらかじめ差し止めるよう求めるものということになるから、不適法というべきである。

この点につき、原告らは、(一) 建設大臣は、すべての土地区画整理事業について施行権を有するものではなく、土地区画整理事業も法所定の要件を充足する場合に建設大臣の施行権及びその被告への委任が観念し得るにすぎないところ、本件事業につき法三条の二第二項一号に規定する必要がないから権限の委任根拠を欠くこと、(二) 処分性のない認可の違法は当然にその無効を結果するから、法の要件を誤る本件認可は当然に無効であるところ、本件事業につき法三条の二第二項一号に規定する必要がなく、これを誤認した建設大臣の判断には裁量権の逸脱、濫用があること、(三) 仮に建設大臣がすべての土地区画整理事業につき施行権を有するとしても、法三条の二第二項一号の必要性に関する重大明白な瑕疵がある以上、被告を本件事業の適法な施行者ということはできないことを主張する。

しかし、右立論は、法三条の二第二項に規定する土地区画整理事業の必要が存することが被告が施行者となる客観的要件であること又は公団法四一条一項に規定する認可における監督権の行使の瑕疵が当然に被告の施行者たる地位を喪失させることを前提とするものであるというべきところ、かかる前提を採用することができないことは既に説示したとおりである。

なお、法三条の二第一、二項に規定する建設大臣の判断は、監督権の行使、すなわち、監督者と施行者たる被告との間の内部的行為の性質を有するものであるから、公団法四一条一項による認可について処分性を肯定するか否かにかかわらず、右判断自体が国民の権利義務に直接影響を与えるものではないことはもとより、原告らが主張する本件行為に対しては、公権力に基づく処分として、抗告訴訟を提起することが可能であるから、建設大臣が法三条の二第二項に規定する必要性を誤認しているとしても、事前に、民事訴訟によって、その差止めを求めることを肯定すべき理由はないというべきである。

三  結論

以上によれば、本件訴えは不適法なものというべきであるから、却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富越和厚 團藤丈士 水谷里枝子)

物件目録〈略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例